(社説)防衛秘密漏洩捜査
防衛省情報本部の一等空佐が読売新聞記者に防衛秘密を漏らしたとして、自衛隊の警務隊が関係先を家宅捜索するなど自衛隊法違反(秘密漏えい)容疑で捜査を進めていることが明るみに出た。メディアへの情報提供に絡む強制捜査は異例である。
17日;朝日社説(1)防衛秘密捜査 知る権利が危うい
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
『今後の捜査の見通しはわからないが、いまのところ、読売新聞の記者は事情聴取をされていないようだ。 久間防衛相は「漏らした方を罰する仕組みだ。通常の取材を罰する法律ではない」と説明する。これは当然のことだ。 しかし、記者を罰しないとしても、情報を漏らした自衛隊員を罰すれば、取材に対する萎縮(いしゅく)効果は大きい。それは結果的に取材や報道の自由を妨げかねないことを忘れてはいけない。 さらに心配なのは、何が防衛秘密に値するのかがあいまいなまま、秘密の範囲が広がっているのではないかということだ。政府が秘密にすべきだと判断すれば、なんでも防衛秘密になるというのでは困る。それでは、時の政府に都合の悪いことは国民の目にさらされないことになってしまう。
今回の読売新聞の記事も、本当に防衛秘密に当たるのか疑問がある。 公海上で起きた中国潜水艦の事故がそれほど重大な秘密なのだろうか。米軍からの情報が含まれていたとしても、その記事だけで米軍の探知能力や行動が分かってしまうというものではあるまい。むしろ、中国の潜水艦の動きや事故を知るのは国民にとって重要なことだろう。 政府に都合のよい防衛上の情報をひそかに流す一方で、米軍に気を使って情報漏れを抑えようとする。これでは、あまりにもバランスを欠いている。 防衛政策は、国民がきちんと内容を知り、議論して理解してこそ、実のあるものになる。防衛上の情報をいたずらに隠そうとするのは、日本の社会のあり方をゆがめることになる。
17日;毎日社説(1)潜水艦事故報道 これが防衛秘密の漏えいか http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070217k0000m070147000c.html
『国家の安全保障上、守るべき秘密はあるだろう。しかし、軍事に関する情報はともすると秘密主義に陥りがちで、国民が政策を判断するための情報が制約されるケースが多い。例えばテロ特措法やイラク特措法による海外での自衛隊活動も実態が分かりにくく、私たちは情報を積極的に公開すべきだと要求してきた。当局が公表しない事実を、取材活動によって明らかにしていくのは報道機関の責務であり、「知る権利」に応える道だと思う。中国の潜水艦事故に関する読売新聞の報道が米国と日本の安全保障に対して、どれだけの実害を及ぼし、双方の国益を損なったことになるのだろうか。 日本近海での中国潜水艦の火災事故は、国民にとって必要な情報であることは明白だ。むしろ、防衛省自らが積極的に公表すべきものだ。
日米間の軍事情報の共有化は進み、防衛省は米国から情報管理の強化を再三、求められてきた。そのため、情報内容よりも省内の引き締めのために強制捜査に踏み切ったという見方もできる。読売の報道が一罰百戒の手段として使われたなら、全く理解に苦しむ。積極的に情報を公開し、国民の理解を得るという流れにも逆行する。
久間章生防衛相は「情報をもらったから罪になるわけではない。通常の取材を罰する法律ではない」と述べた。しかし、情報提供する側を萎縮(いしゅく)させ、国民に必要な情報が届かなくなることを危惧(きぐ)する。 防衛省は捜査の事実は認めたものの、事実関係については詳しく説明していない。まず何が問題なのかをはっきりさせるべきだ。
17日;日経社説(2)防衛秘密漏えい捜査への懸念
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20070216MS3M1600L16022007.html
『問題になっているのは、中国海軍の潜水艦が南シナ海で火災を起こし航行不能になったなどと報じた2005年5月の記事だ。当時の防衛庁は被疑者不詳のまま同法違反で警務隊に刑事告発した。その後、警務隊は情報提供者を特定し、本格的な捜査に乗り出したとみられる。今回の捜査でまず憂慮されるのは、秘密漏えいの概念をメディアへの情報提供にまで広げたことだ。防衛秘密漏えいは01年に罰則が大幅に強化されるなどしたが、これは前年に起きた駐日ロシア大使館武官への秘密漏えい事件を受けた措置だった。
もう一つの大きな問題点は、防衛秘密の範囲や対象があいまいなことである。防衛省・自衛隊は国益を左右する情報を持ち、同盟国の米国とも防衛秘密を共有している。だからこそ一般の国家公務員より厳格な守秘義務が課せられており、その特殊性は理解する必要がある。読売側を捜査対象としなくても、そうした「見せしめ」が報道の自由と「知る権利」に与える影響は大きい。
最高裁は1978年の決定で、「国家公務員への秘密情報提供要請は、真に報道目的で取材手法が社会通念を逸脱していない限りは正当な業務行為」と指摘した。その後の司法判断の多くも報道側に一定の理解を示している。今回の強制捜査は、そうした流れを否定しかねない重大な問題をはらんでいる。
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